公開会社法の議論について

公開会社法、読者のご意見にお答えする(1):ガバナンスについて -- Tech-On!」を読んで、コメントをつけようと思ったのですが、Tech-On!はコメントはログインしないと閲覧できない仕組みになっていて、公開したくてもできないので、こちらに書くことにしました。なので、いつもの統計ベースの話とはちょっと趣向が違いますが、ご了解ください。

件の記事は、「労働者の経営参加」についての各国の制度比較をやっているのですが、非常に良くありがちなダメな議論になってしまっているのが気になります。議論の構成は、ドイツ・フランス・イギリスの関連する制度について説明して、最後にEU各国の従業員経営参画制度について表形式でまとめて、ドイツモデルが成功例であるという言及をして議論を終わらせています。一見、問題なさそうなのですが、致命的な問題点があります。

制度の比較をする場合には、各制度の説明をするだけではダメで、制度の長所・短所や社会・経済への影響を分析する必要があります。その際に、客観的な証拠を挙げることは必須ですし、できれば、定性的な分析だけでなく定量的な分析で議論を補強すべきです。それがないと、どのような制度が望ましいかという結論を論理的に導くことができないためです。

この問題点は、例えば、中国と北朝鮮の政治体制を説明した後に、その社会・経済に対する影響の説明をしないで、日本も全体主義を採用すべきだという結論を導くような議論の展開が問題があることを考えれば、理解できるのではないかと思います。つまり、議論の内容と結論の間に論理の飛躍があるのです。

件の記事では、これまでの議論の流れから、暗黙的に「日本も労働者の経営参加を法制化するべき」という結論があるのですが、なぜそのような法制化が必要なのかという問には全く答えられていないため、議論を進めようと思っても議論の叩き台にすらならないので、読者としては当惑するしかない内容になってしまっています。

政治資金収支報告書

最近、政治資金の問題が話題になっていますが、それを公開するための政治資金収支報告書がウェブサイトから閲覧できるということはあまり知られていないのではないかと思います。

ところが、こちら(企業・団体献金 - lethevert is a programmer)にあるように、紙データのスキャンイメージをPDFファイルで公開しているので、スプレッドシートなどで集計処理をするのが非常に困難なのです。また、どの政治団体がどの政治家と関連しているのかも簡単に調べることができません。
本当に政治資金を透明化する必要があると思うならば、どうしてこのような不完全な情報公開の現状についての議論が進まないのか非常に不思議です。

昔と比べて今は35歳世代で仕事のない人が増えているのか?

前回、所得格差のデータをチェックしたので、今度は失業の方を見てみたいと思います。といっても、そもそも統計において失業というのがどう捉えられているかを確認しておきたいと思います。
労働力調査に関するQ&A」によれば、全人口(15歳以上)は次のように分類されます。

全人口(15歳以上)労働力人口就業者(過去1週間で仕事をした者)
失業者(過去1週間で職探しをした者)
労働力人口

過去1週間で職探しをした者には、求人に応募したり面接を受けたりする者の他、事業を始める準備をしたり応募や面接の結果待ちをしている者も含まれるようです。なお、この失業者の定義は国際基準に準拠していますが、国によって微妙に異なります。ただ、その違いが統計上大きな差になることはないようです。たとえば、次のブログの記事で日米の比較を行っているのが参考になります。

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35歳の年収の話がJ-CASTニュースに取り上げられたようですが

35歳で年収300万以下 団塊ジュニアの苦難続き人生
個別の事例を取り上げて問題喚起をするというのはよいのですが、そこで統計データを恣意的に解釈して都合よく自分の主張の証拠にする態度はいただけないなぁと思います。
冒頭に「35歳の年収は、10年前より200万円下がった」と書いていますが、1月13日の記事に書いたように平均値は200万円も下がっていません。30〜35歳の平成19年の平均は10年前に比較して、50万円程度下がっただけです。しかも、10年前は90年代の不況にもかかわらず給与が上がり続けたあとで、さらにその10年前と比較すると110万円も高い時期にあたります。平成19年とその20年前を比較すると、依然として60万円も高い水準です。
たしかに、10年間で50万円も平均給与が下がっているわけなので、苦しくないはずはないですが、20年も経済成長が止まっていることと、10年前の給与水準が高すぎることを考えれば仕方がないともいえます。それでも、物価調整して比較してみても、20年前と同じ水準の給与を貰っていることになるので、もしそれで生きていけない、子供が育てられないというならば、それは単なる給与水準の問題ではないはずです。
1月16日に書いたように社会保障とインフラのコストが高騰を続けていて、家計を圧迫しているというのが、大きな問題として1つあります。これらを除いた実質的な生活水準は、この10年ほどの間30年前よりも低い水準に落ちてしまっている上に、今もさらに低下を続けているのです。今感じている生活の苦しさは、給与水準が低いのではなく、社会保障とインフラのコストが高すぎることに求めるほうが、統計データには合致した分析です。

所得格差は拡大しているのか?

35歳世代の分析でリクエストのあった所得分布と失業率の観点について、まず所得分布の方をちょっと見てみます。といっても、前々回の分析をみるに、多分そんな面白い結果は出ないのではないかと思うのですが。

元記事にあるように「就業構造基本調査」を用いるのは、次のような問題があります。

  • 平成9年以降のデータしか利用できない。
  • 年収の階級幅が50万円しか利用できない。

そこで、前回も利用した「家計調査」を用いることにします。これを用いると次のような分析ができます。

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統計データの信頼性

硬い分析の記事だけでなく、関連する話題について雑談もたまに書いていこうかと思います。

「ギリシャは信用できず」=統計修正で異例の批判−欧州委(時事通信)
ギリシャ財政赤字に関する統計が大幅に修正されたそうです。
統計データの信頼性は、統計を元に分析をする人に取っては大問題です。公的機関が発表している統計は、設問の設定や標本の抽出などに細心の注意を払って信頼性を保っているので、それがこんなに大幅に修正されると(特にこんな時期に!)非難されるのは仕方ないです。

ただ、こういうことは例外的で、日常的にもっと重要なのは、新聞社などを含む民間機関が行っている調査は、かなり信頼性に疑問なものが多いということです。あまり頼りにしたくない民間統計なのですが、民間統計でないと手に入らないデータも少なくないので、注意して信頼性を確認する必要があります。
とりあえず、以下の点くらいには注意しておく必要があるかなと思っています。

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では、35歳世代が感じる生活の苦しさは、いったい何に起因するのだろうか?

前回の続きです。
「35歳世代が子供の頃に両親が自分にしてくれた、当たり前だと思っていた事が、今では当たり前でなくなってきました。」という命題に対して、「35歳世代とその親の世代とで所得水準の違いがその原因ではない」ということが分かったわけですが、その裏に横たわるものが何なのかということを、だらだらと分析していきたいと思います。
今考えている仮説はこんなものです。

  • 核家族化の進行により、世帯あたりの所得が減少した。
  • 家計の支出構造が変化して、子育てに使える金額が減少した。

なお、先に注意しておくと、この分析の目的は「出生率が下がった原因は何か?」ではないので、次のような仮説は無効です。

  • 親の世代も同じように苦しかったが、将来の展望が明るかったので、子どもを産むことができた。
  • 親の世代では、子どもを産まないことに対する社会的な風当たりが強かった。
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