資本集約型ビジネスは労働集約型ビジネスよりも優れているの?

起業の勧めを説く記事では必ずといっていいほど、労働集約型ビジネスと資本集約型(またはストック型)ビジネスの比較をして、後者が優れているのでそちらを目指すべきということが説かれています。別の言い方では、インフラorプラットフォームorルールを作ってそこから儲けるようにするべきだ、とも説明されます。

最近では、この議論を次のような記事で見ました。(以下にリンク)

この議論は一見説得力があるのですが、果たして本当にそんなにうまくいくものなのでしょうか?実は、経済学の初級的な議論からは、違った議論を導くことができます。

経済学の基本的な議論の1つに、「完全競争市場では、価格は限界費用に等しくなる」というものがあります。これは労働集約型ビジネスとか資本集約型ビジネスとかという区別とは無関係に成立する議論です。ざっくりいうと、「費用=原材料コスト+労働コスト+資本コスト」なので、労働集約型ビジネスなら労働コストが重く、資本集約型ビジネスなら資本コストが重いというだけのことであって、資本集約型ビジネスだけに超過利潤が発生するということはないわけです。

これで議論終了なのですが、これだと起業家の取り分は自らの労働コストと自ら拠出した資本のコストだけになってしまうので、起業家が取ったリスクに対する対価をどこから回収するのかという疑問に答えられていません。

この辺から素人の議論になるのですが、上の議論に時間の概念を持ち込んでくると先の疑問に対する答えになりそうに思います。つまり、現実の市場を「長期的には完全競争市場だが、発生した不均衡が均質化して完全競争状態に復帰するには時間がかかるので、短期的には不完全競争市場である」と仮定してやります。ちなみに、この仮定は、完全競争市場の仮定よりもやや現実に近いと思いますが、現実ではありません。

このような状況の下では、うまく立ち回ることで、大きな不完全競争状態をできるだけ長く維持することで、大きな超過利益を得ることが可能である可能性があります。それは新市場を開拓することで得られる先駆者利得であるかもしれませんし、既存の市場で生産効率を大きく向上させることで得られる利得かもしれませんし、ローエンド型破壊で得られる利得かもしれません。

いずれにしても、起業家の得られる利潤とは、このような市場のゆがみを利用して得られる「裁定利益」である可能性が高いのではないでしょうか。そうであるならば、ベンチャー起業家の目指すべきものは、資本集約型ビジネスや労働集約型ビジネスという違いに目をつけるものではなく、「より大きな裁定利益の得られる市場のゆがみを見つけてそこに投資する」という戦略であるはずです。

さらに、ベンチャー企業と中小企業の違いを区別したい場合には、「ベンチャー企業は裁定利益を得ることを主眼に置いているのに対し、中小企業はおもに労働コストに対する対価を得ることを主眼に置いている」とするのが妥当であるように思います。翻って、資本集約型ビジネスを説いている先の記事のうちの1つや、似たようなテーマの別の記事、(以下にリンク)

を見てみると、裁定利益をいかに取るかということではなく、いかに安全に中小企業を興すかという観点からの起業の勧めになっていることもわかります。

ところで、余談ですが、「付加価値=超過利潤」と勘違いしている人を見かけるのですが、「付加価値=価格−原材料コスト=労働コスト+資本コスト(+超過利潤)」ですので、お間違えなきよう・・・